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心の中で舌打ちをしながら、俺は腕をぶらりと垂らして立ち上がり、ドアの方から顔が見えるように上半身を斜めに倒した。
「いらっしゃいませー」
気の抜けた声でマニュアル化された挨拶をすると、その先で4歳くらいの小さな男の子が身体をびくりと震わせていた。
こんな夜中に、と思いはしたが、おそらく親が遅れて来るのだろう。
俺は彼から目を離し、再びチョコクロワッサンを機械的に棚に詰めていく作業に取り掛かった。
きゅ、きゅ、と靴の底が鳴る音が小刻みに近づいてくる。
すぐに男の子が俺の横を通り、俺の背後にあるおにぎりの棚へと向かっていった。
何気なくちらりと彼に視線をやると、彼もまた俺のことを横目で見ており、目が合うとすぐに顔を背け、身体を縮こまらせてしまった。
眉根をひそめながら彼の様子を見ていると、男の子はちらちらとこちらを見ては目を逸らすを繰り返すばかりで、目の前のおにぎりには手をつけようとしなかった。
俺は溜め息をつきながら立ち上がり、男の子から自分の姿が見えないように、パンの陳列棚の裏へと回った。
店員とはいえ、知らない男がそばにいるのは怖いのだろう。
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