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この頃、灯里にはいいことがなかった。
上司には怒られるし、作業の手順は間違えるしで楽しいことなんてなかった。そんな灯里とは裏腹に紗月はゆっくりだがちゃんと仕事をこなすため失敗などはなかった。
そのため、少し灯里のことが哀れに思っていたのだ。
だが、決して楽しいと思ったことはなかった。
そんな二人は今の暮らしに満足していなかった。
というよりも、とても退屈にしていたのだ。
灯里は何か楽しいこと起きないかなと思いながら横断歩道の信号が青に鳴るのを待っていた。
だが、そんな時だった。
いきなり子供の囁くような声が二人の脳内に入り込んできたのだ。後ろを振り返っても他の人には聞こえてないのか二人は顔を見合わせた。
「そんなに楽しいのがご所望なら僕と遊ばない?」
と、聞こえたのだ。
二人は目を何度も瞬きさせ何度も脳内に入り込んでくる声を探した。
すると、報道の真ん中に白い服を着た男の子が立っていた。
二人ともその男の子を見ていたら、その子がいきなり口を開いて直接脳に話しかけてきたのだ。
「こっちにおいで。僕と遊ぼう。こっちだよ」
その男の子は手招きをしながら二人を自分の方へと呼び寄せた。
二人はその声に従うように、目がうつろになり少年の言葉通りに赤信号の中横断歩道に飛び込んだ。
そんな二人を周りの人達は止めようとしたが、腕をすり抜け少年の前までやってきた。
「大丈夫、これで遊べるよ」
そういう少年の言葉を聞いて頷くふたりを見た男の子は指を鳴らした。
その瞬間だった。
二人の意識が戻り他の人たちが叫ぶ声に気がつき振り返ろうとした時だった。
車が目の前に迫っていて二人は避けることができずそのまま轢かれて死んでしまったのだ。
そう、それが日本での二人の最後の人生だった。
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