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第4章 溺れる者は髪をも掴む~澤田夫妻の答案~
「ええと…これが今日の晩飯か?」
「ええ、そうよ」
「…いきなり、どうした?」
妻の夏菜子が用意した今日の夕食は、わかめご飯、豆腐とわかめの味噌汁、海藻サラダ、わかめとタコの酢の物、とにかく海藻類が入った皿が多い。そして何より海藻類の比率が異様に高い。
「実はね…」
夏菜子は私、栄二に美希が出した宿題について打ち明けた。
「私ね、美希と話してみたんだけど、この宿題は譲らないって。で、担任の川口先生にも文句言いに行ったんだけどさ、完璧にできない場合もある、ベストを尽くしてください、って涼しい顔で言われちゃって…」
栄二は頭を抱えた。手を頭から離すと、一本髪の毛が抜け落ちた。
ふう、やれやれ。面倒なことになったなぁ。
「無理だろ。まったく」
「でもね、なおさなかったら、二分の一成人式出ないよ。コンビニでピッ、ってやったら198円って数字が出そうな頭なんてイヤよ。あ、でもカツラは嫌よ。だって、ズレたら最高に恥ずかしいもん」
美希が冷たく言った。198円か、安くみられたもんだ。
「だから、ハゲに効きそうなものはできるかぎり全部やるわよ。よろしくね」
ハゲ対策のストレスでむしろ髪の毛が抜けそうだ。
「ごちそうさま」
美希はそう言うと席を立ち、流し場に食器を片付けに行った。
「頑張ってね。パパ」
美希はそう小声で耳元でささやいた。
長い冬休みのスタートだ。ふぅ、やれやれ。
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