あの日

2/19
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
この世界は不条理だ 戦争 内戦 疫病 飢餓 この平和な日常から遠く離れた異国の地で、一日一体何人の人生が散っていくのだろう 抗いようのない大きな秩序の前には、人は余りにも無力だ 吹けば飛ぶ春の綿毛のように 儚くもこの世界へと飛び立っていく 一つ綿毛と異なる点といえば、それが永遠への旅路であることだろうか ぼんやりとそんなことを考えながら、炊き立ての白米を口に運ぶ 二本の黒い箸に挟まれた、かつて植物であった白い粒たち 同じだ この米粒も、歴史に刻まれない人々の魂も こうして無気力な時間が過ぎていく間にも、きっと世界では多くの命が失われているのだろう 彼らは、生きたかっただろうか この不条理で残酷な世界を 大型テレビの画面に、茶髪の女性レポーターの笑顔が映る 今日の天気は晴れ 雨でなくて良かった 天気が悪くなると一気に湿度がきつくなってしまう テレビから視線を離し、ベランダの向こうの景色を見やる どうやら、予報は間違っていなさそうだ 眠気が支配する頭で納得したところへ、バタバタと廊下を走ってくる音がする
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!