最終章

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 間宮励ーー間宮君から告白されたのは昨日の放課後のことだった。  今振り返っても嘘のような出来事で、狐か狸に化かされているのではと疑いたくなるほどだ。  でも、昨日起こったことは間違いなく現実に起きたことで、自分で言うのも恥ずかしいのだが、一応、彼氏と彼女の関係ということになる。 「……良いのかなぁ、これで」  確かに私は間宮君の事が好きだった。  否、修学旅行でふられても未練たらしく彼の事を思い続けていた。  三学期が始まったばかりの頃から、学校に姿を見せなくなった彼の事が心配で仕方がなかったのは、一昨日までのことで、昨日、久しぶりに見た間宮君は、幾分やつれてしまっている風に見え、不安が一気に胸へと押し寄せた。  彼が学校に来なくなってしまった理由は分からないけれど、その予兆が全く無かったというわけではなかった。  彼が変わったのは、修学旅行が終わって暫くした後だ。  どこか朧気で、笑った顔もどこか薄っぺらく覇気がなかった。気になってはいたが、彼にふられてしまった手前、中々勇気が出ず、話し掛けることさえも出来ずにいた。  そんな時に、間宮君が彼女全員と別れたという噂が耳に入ってきたのだ。  今までそんな事はあり得なかった。私が知っている彼は、いつも誰かと付き合っていて、女の子との噂が絶えない人だったから。  ……もしかして、私のせい?  その時は、自惚れかもしれないが、そう思ってしまった。タイミング的にも合っていたから。  告白した結果、私の言葉の何かが彼を追い詰めてしまったのだとしたら………。  確証は無い。  杞憂に過ぎないかもしれない。  それでも、心配で仕方がなかった。  何度も携帯を開き、間宮君の連絡先を開いては何にもしないで閉じる日々が続き、昨日、彼は、久しぶりに姿を現したのだ。  偶然にも、私と一緒の日直の日だ。 「約束したから」  少しやつれた顔で、華のない笑顔を向けられて言われた台詞。  胸が痛かった。  そんな些細な約束を忘れないでいてくれたこと。  見たことない笑顔を向けられてしまったこと。  それでも久しぶりに見た彼の顔と、その声に、不覚にも胸が大きく跳ねてしまい、まだ彼の事が大好きなんだと再確認してしまい、 色んなことが一気に押し寄せて、胸が痛かった。
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