第5章

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「付き合い始めの頃は幸せだった。他にも何人か彼女がいても励は皆に平等に優しくて、ちゃんと彼氏をしてて。悪いのは私の方・・・・・・。励はちゃんと注意換気してくれたのに、それがどういう事か、どういう覚悟が必要だったかも考えないで付き合っちゃったから。どんどん我儘になっていくの。私が彼女の中で一番可愛くなろうーーが、一番愛されたいになって、独占欲ばかりが強くなってしまったんだよね」 ーー独占欲? 私にはまだ間宮励に対して独占欲というものが生まれていない。 間宮励を独り占めしたい、自分だけのものにしたいとは思った事が無かった。 だとしたら、朝比奈さんが彼と付き合っていたと知った時やお祭りで綺麗な女性と一緒にいるのを目の辺りにした時に生じた胸の痛みは何だったのか。嫉妬からくるものだと思っていたが、もしかしたら、無自覚下で多少なりとも独占したいと思っていたのかもしれない。 雲の上の更なる高みにいるような人にーー。 そこで、朝比奈さんの話を聞いているのに、自分の事を考えてしまっている自分に気付き、恥ずかしくなり、深く目を閉じた。 今は朝比奈さんの話を聞かないと。 ただ彼女の言葉を聞いていて不思議に思った事がある。 独占欲とはそんなに迷惑なものなのだろうか。付き合い始め、好きな人の一番になりたいのは当たり前のこと。だから、朝比奈さんが間宮励と付き合って独り占めしたいと思うようになってしまったのは自然な流れで咎める事でもないはず。 誰とも恋愛をしたことのない自分だけれど、好きになればなる程、その感情は高まるのでは無いのだろうか。 ふと、間宮励が以前に言っていた言葉を思い出す。 ーー俺が付き合いたいって思う女性は、描きたいって思った女性。 彼はそう言った。彼の「好き」の定義が「描きたい」なら、少なからず朝比奈さんの事は好きだった筈だ。描きたいと思わないなら付き合わないだろうし、そこまで見境の無い人にも思えない。 ただ、朝比奈さんと彼の場合は、「好きの度合い」が違ったのかもしれない。否、それは朝比奈さんに限ったことではなくて、きっと間宮励と付き合った女性の殆どがーーおそらく、お祭りで出会った綺麗な女性以外。
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