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朝比奈さんは当時の事を思い出すように時々目線を飲み掛けのアイスティーにやりながら、思い出を語るように優しく言葉を続ける。
「自分がどんどん醜くなっていって、励の負担になるのが嫌だった。だから、自分から告白しといて、自分から振ったんだ」
振られるよりまだ増しでしょ?
と、彼女は何事も無かったように平気そうに笑った。
「不思議な事にね、別れたらすっきりしたの。あんなに好きだったのにね。でも、もしかしたら・・・・・・最初から好きじゃなかったのかも」
「す、好きじゃ、なかった?」
「だって本当に励の事が好きだったら、他にも彼女がいるって言われたら嫌でしょ? 励は分かってたんだよ、全て」
「・・・・・・?」
彼女の言葉を上手く理解出来ず首を傾げる。
「付き合う時に言われた"他にも彼女がいるけど良い?"ーーは、励にとっては二つの意味があって、一つは相手を思いやる意味、もう一つは、相手を試す意味があるんじゃないかなって・・・・・・。本人には訊いた事が無いけどね」
相手を試す意味、それは相手が自分の事を本当に好いているのかという事だろうか。もしそうだとしたら、彼にとってそれはどういう意味があるのだろうか。
朝比奈さんは「好きじゃなかったのかも」と言ったけど、彼女の話を聞いていると、とてもそうは感じられなかった。彼女の口からは一度も間宮励を悪く言う言葉が出ていないのだ。
それは、当時、彼の事がちゃんと好きだったからだと私は思う。今はなんとも思っていないとしても。
「わ、別れるとき・・・・・・つ、辛かった、ですか?」
「辛くなかったと言えば嘘になるけど。でも今は全然普通に励と話せるし、励を見てても前みたいにときめいたりしなくなっちゃった。一度付き合ったら満足しちゃったのかな?」
彼女は当時の事を懐かしんでいるか遠い目をしながら言った。
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