第5章

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日付は七月から八月へと変わり、猛暑日が続いていた。平日の午前中、両親は二人とも仕事で朝からいない。特に用事の無い私は、普段母に任せっぱなしの家事を手伝う事にしている。朝飯の片付けと洗濯物を終わらせ、リビングの掃除を一通り済ませた頃、携帯の着信が鳴り響いた。テレビの音のみの部屋に突然に響いた高い音に驚き、変な声が出る。 父か母のどちらかが携帯を忘れてしまったのかと思ったが、音が鳴っている方を振り向くと、ダイニングテーブルの上に置かれた携帯は、私の物だった。 「お父さんか、お母さんかな?」 朝比奈さんとはちょくちょくと連絡を取り合う事はあるけど、彼女は夏休みの間は夜遅くまで本を読み更けているらしく、彼女からの連絡は大抵昼頃辺りだ。時間的に考えると両親のどちらかだ。 何か忘れ物かな? そう考え、いつものように画面に出ている名前を大して確認せずテレビの方を見ながら「もしもし」と出た。 『ーーもしもし、急に電話してごめんね』 「?」 父の声にしては若々しく、透き通った声に驚いた。明らかに父ではない。 誰ーー? いや、この声は・・・・・・。 「ま、ま、間宮、君・・・・・・?」 持っていた携帯をつい落としそうになり、両手でしっかりと持ち直した。 『おはよう。いや、こんにちは、かな?』 予想外の人物に言葉が出なかった。 突然の事に思考もついてこない。 どうして間宮励から? なんで? 色々と疑問があるけれど、口がわなわなとするだけで言葉が出なかった。 『電話、まずかったかな?』 中々返事をしない私に痺れを切らしたのか、少し心配そうな声が電話口から聞こえる。 「あ、え、えと、その・・・・・・」 まずいわけではない。 ただ、心の準備が出来ていない。 好きだと認識した人からの突然の電話。 テンパらない訳がない。
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