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ーーいや、いやいやいや。おかしいだろ、自分。
舞い上がってどうするんだ。
嬉しいって思ってどうするんだ。
もう、そういう感情を抱いては駄目なのだから。
明らかに胸が高鳴っている。ドキドキと脈も速くなっている。
「東條さん?」と間宮励の声にはっとし、冷静さを必死に装いながら「どうしたのですか?」とやっとの思いで口に出した。
『試験の前あたりに約束したと思うんだけど、向日葵見に行かない?』
「あ・・・・・・」
その約束、覚えていてくれたんだ。
『忘れてた? まあ、約束したのもかなり前だし当然か。いつも見に行く向日葵畑、今年は生育が遅れてて、最近やっと満開になったみたいで』
向日葵を見に行く約束はちゃんと覚えている。
ずっと楽しみにしていたから忘れる訳がない。
ただ、あれから連絡も無かったから、てっきり忘れられたのかと思っていた。
それに私自身、気付いてしまった自分の気持ちを無くす為に、間宮励とはなるべく距離を取らなければならないから、この約束は無かったものとして考えていたのだ。
ーー行きたいなぁ。彼とあのスケッチブックに描かれた向日葵畑を見てみたい。
それが本音なのに。
「あ、あの・・・・・・い、行けない、です」
『え?』
「すっ、す、すみませんっ! ら、来週からお、お祖母ちゃんちにい、行くので、そ、それでっ・・・・・」
お祖母ちゃんちに行くなんて嘘だ。
でも、会ってしまったら、きっともっと好きになる。
電話でさえ、こんなに苦しくなるのだから。
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