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『・・・・・・そうなんだ』
少しの間を置いて、声色を落とした声が返ってきた。
残念そうに聞こえるのは、私の思い上がりだろう。恋をするとこうも自分の都合の良いように捉えてしまうものなのか。
「あ、あの、す、すみません・・・・・・」
『気にしないで。こっちも連絡遅くなっちゃったし。お祖母ちゃんちかー。どこにあるの?』
「え?!」
適当についた嘘に対し質問が返ってくるとは思わなかった。
そもそも父方も母方も、割合と近くに住んで いる為、泊まりに行く事なんて早々無い。それを正直に答えたら怪しまれるのは目に見えている。
これ以上、嘘を付きたくない。
「あ、え、えと・・・・・・こ、答えないと、駄目、ですか?」
『・・・・・・あー、もしかして、俺、失礼な事聞いちゃったかな? そういうの疎くて、ごめん』
「い、いえ! あ、謝らないで下さいっ! わ、私が、わ、悪いので」
『? なんで東條さんが悪いの?』
「東條さんは何も悪くないだろ?」と言う彼の言葉はどこまでも柔らかく、私の胸の奥を締め付けた。
この人を傷付けたくない。だから嘘を付きたくない。でも彼の事をこれ以上好きになりたくない。
好きって感情を抑えるのは凄く難しい。
『ーーねえ、まだ、電話大丈夫?』
「あ、え、えと、はい・・・・・・」
大丈夫じゃない。これ以上、彼の声を聞いていたら、「好き」がもっと大きくなる。
それは分かっているのに。
もう少しだけでも、間宮励の声を聞いていたい。彼と話していたい。
もう少しだけ。
彼もそう思っていてくれていたらーーなんて、都合の良い事を願ってしまう自分の軽率さが情けない。
『今、何してるの?』
「せ、洗濯をして・・・・・・そ、掃除をして、ました」
『ふはっ・・・・・・』
あれ? 笑われた?
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