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『ーーさん、東條さん・・・・・・?』
「ふぁ、ふぁいっ・・・・・・!」
『っふ・・・・・・ふはっ。何その返事。人の話聞いてた?』
クックッと電話口で聞こえる彼の笑い声が、ダイレクトに耳に届き脳に甘い痺れをもたらす。まるで直ぐ近くに彼がいて耳元でお話ししているみたい。
・・・・・・って、いけない、いけない。何変な妄想しようとしているんだ、自分。
『ーー今日は有り難う。向日葵は残念だけど、また違う所でも一緒に行こうよ』
そう言われたら、例えそれが無理であっても「はい」と頷いてしまう。
『じゃあ、またね』
もっと話ていたい。声を聞いていたい。
でも、彼女でもない私には彼を引き留める理由も無ければ、そんか権利もないのが現実だった。
自分の気持ちを抑えるように「さようなら」と言うと、彼は『また連絡するね』と言って電話を切った。
ツーツーと鳴る不通音が、少し妬ましく感じる。
静かなリビングの風景が先程までと一変し殺風景に感じた。彼の声が無いだけで、そこはいつもと変わらないのに。
顔からソファにダイブして携帯を胸の辺りで抱き締める。
「~~・・・・・・っ」
抑えていた気持ちが溢れだしそうだ。
たった一本の電話で、今直ぐにでも涙が出てきそう。
こんな事で本当に諦められるのか。
好きな人の諦め方が分からない。
間宮励と会わなければこの気持ちは自然と消えるだろうーーそう思っていた。
だけど、今わかった。
好きな人を諦めるって、簡単な事ではないんだーーと。
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