第6章

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 その後、全部の班の班長等が決まった頃合いを見て、先生が「紙、回収するぞー」と言い、各班の班長は、記入した用紙を先生に提出し、その後は自由解散となった。  朝比奈さんは午後一でバイトを入れていたみたいで、慌てた様子で帰っていった。秋森君も、野球部のミーティングがあるらしく、朝比奈さんの後に続くように教室を後にした。  残された私は、特に用事がない為、ゆっくりと帰り支度を済ませ、他のクラスメートが帰る波が落ち着くのを見て、椅子から立ち上がった。すると、たまたま手に取った自分の携帯が点滅している事に気付く。  ーー誰だろう? お母さんかな?  メールの宛名を確認して、思わず顔を上げ、教室の廊下側を見ると、間宮励と目が合った。  メールの送り主は彼だ。「この後、部室来て」と短い文章だけが記されていた。  断ろうかと思ったが、先ほど、彼の前で朝比奈さんとの会話を聞かれている事を思い出す。  朝比奈さんの「東條さんは、この後、予定あるの?」という質問に「ないです」と答えていたのだ。彼の文章が「この後、大丈夫?」という風な質問になっていなのは、私が断る理由が無いのを知っているからだろう。  ここで変に断るのも、相手に失礼だと感じ、「わかりました」と入力し返信する。  彼はそのメールを見た後、小さくほほ笑み返し、先に教室を出て行った。 「~~っ……」  私は手に持っていた携帯を握りしめ、この頬の火照りが早く治まって欲しいと願った。  周りは帰宅する生徒の話声や、廊下を歩く足音で賑やかな筈なのに、自分の鼓動の音だけが煩く響き、それ以外の雑音は耳を通り抜けていく感じがした。  ドキドキ、ドキドキと、確かな熱を持って響く音に、私はあとどれくらい悩まされるのだろうかと、先の見えない苦労に持っていた携帯を机に置き、顔を両手で覆った。  
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