第6章

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   暫くの沈黙の後、彼は「うーん」と目頭を軽く親指と人差し指で揉んだ後、口を開いた。 「ーー東條さんは、俺と一緒だと嫌?」 「いっ、嫌じゃ、ないっ……です……!」 「俺もだよ」  ーーえ……? 「俺は東條さんと一緒に修学旅行に行ける事が出来て、結構浮かれてるけど」 「う、うか……れて、る……?」  それはつまりーー。 「嬉しいってこと」  間宮励は照れ隠しのつもりなのか、小さく咳払いをした後、「わかった? だから気にしないで」と言った。 「は……はい……」  ここで「私も嬉しいです」と返したかったのだが、口が震えてうまく言えそうになく、喉の一歩手前あたりまで来た言葉を飲み込んだ。  ーーでも、良かった、本当に。  もし、嫌々、私達と一緒になってしまったのだとしたら、本当に申し訳なかったから。  彼が「嬉しい」と言ったのなら、少なからず私達と一緒の班になった事に対して嫌だとは思っていないのだろう。気にしないでとまで言われてしまっては、もうこれ以上気にしてしまうのは、返って彼に気を遣わせてしまうかもしれない。 「東條さんさ、めっちゃ俺に気を遣って遠慮しているみたいだけど、良いよ、しなくて」 「え?」 「俺、結構自惚れてたんだよね。東條さんと一緒に出掛けたり、何回か一緒に帰ったり、連絡先とか交換したりして。少しは俺に心開いてくれたのかなって。……もしかしたら、俺が東條さんの一番の友達になれたかもってガキみたいな優越感があった」  「引くだろ?」と微笑する彼に、私は何も答えずに次の言葉を待った。  室内の温度が設定温度に達したのか、クーラーが小さくカタカタと音を鳴らし始めた。
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