第6章

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「夏祭りの時、東條さんが秋森と一緒にいるのを見て、正直、少し悔しかったんだ。浴衣とか凄く似合ってたし、一番に「可愛い」って言いたかったから。……自分から友達になりたいって感じたのは、東條さんが初めてだからなのかな? 自分でも自覚がない所で独占したいって思ってるのかも」  クーラーの音は直ぐしたら止み、静かな室内に彼の言葉だけが響く。  いつもだったら、私が彼の真っ直ぐな瞳から目を逸らすのだが、今は逆だった。  締められたカーテンの向こうにある空を見るように、間宮励の視線は横に逸らされ、何かを考えながら一言ずつ口を開く憂い浴びた表情を、私は黙って見つめていた。 「一緒にひまわり見に行くのだって結構楽しみにしてたから、断られた時、思いのほかショックで。夏休みの間も、東條さんからメールすら来なかったし」 「あ、そ、それは……」 「ーーだから」  そこでようやく、ずっと横に逸らされていた瞳が、まっすぐに私の方に向けられた。 「一緒の班になれて、すっげえ、喜んでるの。東條さんが思っている以上に」  少しふて腐れたように言われた台詞は、いつも大人っぽく見える彼から発せられた言葉ではないようで、私の都合の良い空耳かとも思ったが、じとっと自分を見つめる瞳を見て、空耳なんかではないという事を自覚した。 「だから、俺が他の友達と一緒になりたかったんじゃないかとか、そういう事言うの、もう無しにしてくれる? 東條さんのそういう所、良いと思うけど、俺は……俺にだけは、変に気を遣って欲しくないし、東條さんの一番の気持ちを知りたい」  ーー私の一番の気持ち……。  彼は今、友達として、引っ込み思案で臆病な私に手を差し伸べて少しずつ、そこから立ち上がらせようとしている。私の都合の良い捉え方かもしれない。でも、友達だと思っている人がいつまでも自分に心を開いてくれない事は、とても悲しいかもしれない。私は、今まで友達というものがいなかったから、それが分からなかったが、「迷惑を掛けないように」という気持ちが、返って彼を寂しい気持にしてしまった。
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