第6章

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 人と人との距離に、正しい答えなど無い。  嫌われるのが怖くて、その距離を測ろうとしなかった私に、この目の前の人はそっと紐を渡してくれて、ゆっくりと引いてくれている。距離の長さなんて気にしなくていいと言っているように。 「あーもう……。俺、普段こんなに自分の事話さないのに、めっちゃかっこ悪っ……」 「……じゃ、な、ない、です」 「え?」 「ま、間宮君は、か、かっこ悪く、なんて、ないっ……です……」  あなたの事を好きになってしまったのだと、その一番の気持ちは、彼に伝えるつもりはないけれど、間宮励が思っている以上に、私が間宮励の事を特別に思っていることくらいは伝えたいと、知って欲しいと思った。 「と、友達が、い、いなかった、私の名前を憶えていてくれたこと……わ、わた、私の事をっ、軽蔑せず、優しく笑って、せ、接してくれたこと……あ、あじ、紫陽花を見に行くのに連れていってくれたこと、わ、私の事、いつも一番に考えてくれたこと……す、すごく……嬉しくて。わ、私のような人間に、自信を、く、くれる言葉を、いつも言ってくれる。……ゆ、浴衣可愛いねって、い、言われた時も、と、とても嬉しかった。ま、間宮君と友達になれて、本当に幸せだって思ってる。こ、こうやって話している今も、す、すごく幸せで……っ」  言葉に出来ないほどの想いがある。全部伝える事は出来ないけど、彼に少しでも届いて欲しいと思った。  朝比奈さんと友達になれたのも、秋森君と前より親しく話せるようになったのも、もしかしたら間宮励が、私に普通に話しかけてくれて、少なからず私自身が「変わりたい」と思う変化の切っ掛けを作ってくれたからなのかもしれない。 「わ、私……、ま、間宮君と、な、仲良くなれて、ほ、本当に、嬉しい、です。し、修学旅行もっ、と、とても楽しみに、し、してます」  膝の上に置かれた両手の指を、もじもじと蟹の足みたいに動かす。相変わらずうまく言葉を繋げて喋る事は出来ないけれど、彼は目を優しく細めながら聞いてくれた。その温かい眼差しに、緊張で張った糸が、ゆっくりと解されていくようだった。 「ーー東條さん、ごめん」  ーーえ?  ゆっくりと立ち上がったと思った次の瞬間、彼は、座っている私をそのまま抱きしめた。
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