第6章

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 彼が部室に戻ってきたのは、それから十分ほど過ぎた頃だった。  「大丈夫ですか?」と問いかければ、いつものように柔らかい笑みを見せ「大丈夫」と答えた。 「ーーさっきの事なんだけど」  彼が張りつめたように言葉を口にしたのを聞いて、私は慌てて言葉を発した。 「あ、あれは……その、き、気にして、な、ないですから」 「え……?」 「あ、あれくらい、そ、の……た、大したことない、です……」  以前、彼にキスされた時のことと比べると先程の出来事はまだ良い方かもしれない。それに先程の彼の様子は少しおかしかった。どうして彼があんな行動をしたのか、その疑問は消えないが、いつもと違う彼の方が心配だ。夏休みが終わってもまだ残暑は残っている。暑さにやられて、体調がすぐれないのかしれないと思うと、心がそわそわと焦り始める。 「……大したことない、か」 「?」  彼の表情が一瞬曇ったように見えた。私、何かおかしな事でも言ったのだろうか。そう心配になり、口を開こうとした時、彼の顔が一変して笑顔を見せた。 「ありがとう。でも、前にもキスしちゃった事あるし、何回も驚かせてごめんね」  いつものように優しい口調で言う彼は、すっかりと見慣れた彼に戻っていた。 「も、もう……ほ、本当に気にしないで……。そ、それより、ま、間宮君は……だ、大丈夫、で、ですか? た、体調とか……わ、悪くない、です……?」  心配げに彼を見上げると、彼の瞳がまた少し揺れたように見えた。でもそれは一瞬のことで、すぐに笑みを見せ「体調は全然平気だけど」と言った。  その言葉にほっと息をつき、小さく頷いた。 「ーーそうそう、東條さんに見せたいものがあって」 「わ、私に……?」 「うん。今日呼び出した一番の目的はそれなんだ」  間宮励は「ちょっと来て」と、小さく手招きをして、準備室に入るように促した。
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