第6章

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 準備室は二つある。一つは選択科目を専攻している生徒が出入り出来る部屋で広さは畳四畳ほどとあまり広くはない。今、案内されたのは美術部が使っている方だ。初めて入ったそこは意外にも広く畳八畳以上はありそうだ。片方は壁に棚が備え付けられており、美術で使う道具がおいてあり、奥には古い段ボールがいくつか重ねておいてあった。入口の扉付近には大きなキャンバスが何枚か重ねて壁に肩掛けてある。  「夏休みの間、ずっとこれ描いてたんだよね」  そう言って、間宮励は段ボールが重ねられている近くの棚から、白い布を纏った何かを取り出した。大きさはやや小さめのテレビくらいだろうか。  彼はゆっくりと布を捲る。すると、黄色と青と緑の世界が一気に目に飛び込んできた。 「こ、これ……ひ、ひまわり……!」  彼が持つキャンパスには、入道雲が広がる夏特有の青い空の下に、一面と広がるひまわり畑が描かれていた。日差しに向かって背伸びするひまわりは力強く描かれ、しかしどこか懐かしく思えるような絵だった。以前、彼から貰ったスケッチブックに描かれたものとはまた違う。同じ風景のはずなのに、別の世界のものを描いているように感じた。 「前のは色鉛筆や水彩絵の具だけど、今回のはがっつり描きたくて、油絵にしてみたんだ」  油絵……聞きなれた言葉だが、いざその作品を目の前にすると、それが一体どういうものなのかを深く考えた事のない自分を改めて知る。  間宮励の描いたそれは、美術の教科書や展示会に飾られても引きを取らない出来栄えだった。勿論、私は素人なのでプロとの違いなど分かりはしないのだが。 「す、素敵です……本当に……!」  何度も重ねて塗られて部分は凹凸が出来ており、彼のこだわりを感じる。 「本当は東條さんに本物を見て欲しかったんだけどね。紫陽花を見にいった時みたいに喜ぶ姿が見れないのがどうしても悔しくて、気付いたら描いてたんだ」  「ようやく見れたから、今、すごく満足してる」と笑った顔に、また胸が高鳴った。
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