第6章

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それじゃあ、まるで私の為に描いたように聞こえるーーそんな風に思ってしまった自分に呆れ、慌てたように首を左右に振り、都合の良い解釈を頭の中から消した。 「ーー来年は、一緒に見に行こうな」  ーーえ?  突然の彼の言葉に思わず彼の顔を凝視した。  間宮励は、そんな私に優しい眼差しを向ける。 「ら……来年?」 「そう。なんか可笑しなこと言った?」 可笑しなことは言ってない。そう頭の中で答えても口は上手く動いてくれず、首を小さく横に振ることしか出来なかった。 「俺と東條さんは、友達だろ? 来年の約束、今からしちゃ、駄目だった?」  嬉しいはずの言葉なのに、胸にズキンと痛みが走った。あの時、自分の都合で彼に嘘を付いてしまったことを酷く悔やむ。  まさか、彼が私との約束をこれほど大事に考えていたなど想像もしていなかったのだ。大勢いる友人との些細な約束にしか過ぎない、その程度だろうと思っていた。でも、今までの会話を思い返すと、彼は私との約束をとても楽しみにしており、もしかしたら色々と考えてくれていたのかもしれないと思うと彼への後ろめたさが胸の内を抉った。 ーーこんな素敵な絵を描いてくれるほど……。  もしかしたら、取り返しの付かない嘘を付いてしまったのかもしれない。  私は、自分の彼に対する気持ちをどうするかという前に、まずは彼の友人としてきちんと向き合うべきだったのだ。 「東條さん、大丈夫?」  そう声を掛けられはっとする。心配そうに眉を潜めた彼が私の顔を窺っていた。 「だ、大丈夫っ、です」  「俺と東條さんは友達だろ?」その彼の言葉に気付かされてしまった。  私と彼とでは、互いに対し抱いている感情は違えど、友達という関係は変わらない。だとしたら、人として、友達を傷つけることはしてはいけなかった。例え、どんなに小さな嘘でも、私の嘘は彼の為についた優しい嘘でもなんでもなく、自分を守る身勝手な嘘だったのだから。  
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