第6章

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 九月の終わり、天気にも恵まれた秋空の下で、生徒達の大きな声援が校庭中に響いていた。今日は、私が苦手とするイベントの一つ、体育祭だ。と言っても、私は大縄飛びと綱引きしか出ないので、テントの下でクラスの皆が競技に励む姿を見ているだけだった。 「ーーただいま~」  疲れた様子でテントに戻ってきた朝比奈さんに、先ほど自動販売機で買ったスポーツドリンクを手渡す。 「あ、朝比奈さん、す、凄かったです……に、二百メートル、一位、お、おめで、とう、ございます」 「ありがとう~。でもギリギリだったよ~」  それでも帰宅部の彼女が、運動部の生徒に勝つのは凄い事だと思う。運動神経が良い彼女は、二百メートルの他に走り幅跳びと学年別対抗リレー、そして私と同じ大縄跳びと綱引きに出るのだ。どれか一つでも代わってあげたいが、私の運動音痴だとどうすることも出来ないのが、少し情けなかった。 「お昼前に走り幅跳びがあるから、それ終わったらお昼一緒に食べよ」 「! はいっ……!」  去年までは一人で誰もいない教室でお昼を食べていた。でも、今年は朝比奈さんが一緒だ。それだけでも、毎年抱いていた憂鬱な気持ちが軽くなる。彼女と二人で歩いていると、他のクラスの人達からは二度見、三度見される事はあるけれど、同じクラスの子達からはもう見慣れた組み合わせらしく、誰にも何も言われることは無かった。 「満ー、次、男子の高跳び始まるみたいだよ。応援行かない?」  一人のクラスメートの子が、テントの後ろから声を掛けてきた。条件反射で私も振り向くと、その生徒と目が合ってしまった。 「どうせだったら二人とも応援行こうよ。数いる方が男子も喜ぶでしょ」  そう言って、その子は「ほら早く~」と手招きをしながら笑った。  ーー二人とも……、私も入ってる……。  その言葉が嬉しくて自然と笑みが零れた。今まで、そんな風に誘われることなんて無かったから。  「東條さん、行こっか」そう言って笑う朝比奈さんに頷いて、先ほど声を掛けてくれた生徒に続いてテントを出た。
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