第6章

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「ーーそれにしても、東條さん、暑くない?」  男子の高跳びを見る前にトイレに寄ると、朝比奈さんが首を傾けた。 「? な、何が、でしょうか?」  質問の意図が分からず、私自身も首を横に傾けると、彼女は「髪、結んであげようか?」と言った。どうやら、肩より下に伸びている私の髪が暑苦しく見えたらしい。私の返事を待たずに、彼女は自分の手首にはめてあるゴムを外した。 「あ、そ、それ、あ、朝比奈さんの……」 「良いから良いから。ゴムの一つや二つ気にしないで」 「で、でも……」 「ほら、後ろ向いて、ね?」  彼女の言う通り、肩の下まで伸びた髪は、汗で首の裏に張り付いて気持ち悪かった。言われた通り、後ろを振り向くと、彼女は私の髪を手櫛で整えて、後ろの高い位置で一つに纏めてくれた。 「できた! うん、思ってた通り、東條さん、ポニーテール似合うね!」  そう言って彼女はにこっと顔を綻ばせ、まるで自分の事のように喜んだ。  ポニーテールなんて、いつぶりだろうか。下手したら幼稚園の頃から人前ではしたことないかもしれない。 「あ、ありがとう、ございます」 「ううん! いつもと雰囲気違うから、みんな驚くかもね!」  彼女の言われた通り、鏡に映る自分の姿は、いつもの自分とだいぶ違って見えた。髪が後ろに纏められている分、首元がすっきりと露わになり、幾分明るく見える。頭の上の方で結ばれているからか、清潔感も感じられた。  トイレから出ると、他のクラスの子達とすれ違った。その際に、男子の高跳びが始まっていると話しているのが聞こえたので、私と朝比奈さんは、急いで競技が行われている場所へと向かった。 「二人とも、遅いよー! もう一回、飛んじゃったよ?」  先ほど、私達に声を掛けたクラスの子が慌てたように言う。  正直、誰が何の種目なのか把握していない私は、この高跳びに誰が出るのか分からなかった。隣にいる朝比奈さんにこっそりと尋ねる。 「高跳びは、確か……山田と、秋森君と、励だね。あ、でも山田はもう飛んじゃったみたい」  間宮励の名前に少しドキッとした。  山田とは、良く間宮励と一緒にいる友達の一人で、くしゃりとした笑顔が特徴的なクラスメートだ。  ーー間宮励も出るんだ……秋森君も。  
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