第6章

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「励、格好良かったよ! ね、東條さん!」 「えっ……!?」  急に話を振られ、なんて答えて良いのか分からず慌てる。でも、ここは自分の正直な気持ちを伝えたいと思い、彼女の言葉に小さく頷いた。恐る恐る間宮励の方を見ると、満面の笑みを見せながら「ありがとう」と言った。  ーーそんな笑顔、反則過ぎる……! 当然、彼がそんな顔をするものだから、それを見た周囲の女子生徒から悲鳴のようなものが上がった。 「おーい、静かにしろー!」  あまりにも周りが煩くなったので、それを制するように監督役の先生が注意する。  そうだ、まだ秋森君が残ってるんだ。ちゃんと応援しないと。  間宮励が飛べた事で、私達のクラスが一位なのは変わりないと思うが、勝ち負けとか関係なく、秋森君も成功して欲しい。  顔を上げるとタイミング良く秋森君と目が合った。口元が動いているように見えたので、目を細めてその動きを追う。  ーー見てて。  そう、動いているように見えた。  それが確かかどうかは分からないけど、その言葉に返事をする代わりに深く頷いた。そして、彼はそれを確認した後、地面を蹴って走り出す。  ーーあ……嘘。  秋森君がバーを飛び超えたのは一瞬だった。高身長の彼は、その体を綺麗に捻らせ、一回目のジャンプで成功させたのだ。その姿は、本当にあっさりとしており、なのに誰もが沈黙するほど鮮やかだった。 「……秋森ファンが増えそうだね」  隣で呟いた朝比奈さんの言葉に、私は同感の意味を込め、何度も首を縦に振った。  結果として、最終的には、間宮励と秋森君の一位争いになったのだが、間宮励は次のジャンプで三回失敗し、秋森君は最後の三回目で成功して、一位が秋森君、二位が間宮励という順番になった。二人が残した記録は、結構凄かったみたいで、それを見ていた陸上部らしい生徒が一生懸命に二人に声を掛け勧誘していた。それを笑って断る間宮励と、ほぼ無視している秋森君を少し離れた所から眺める。 「ねえねえ、ちょっと二人に声掛けて行こうよ!」 「あっ……」  朝比奈さんに手を引かれ、未だに注目の的となっている二人の傍に駆け寄る。  
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