第6章

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  がやがやと人が集まっている中心に二人がいた。汗を沢山掻いたのであろう、二人とも暑苦しそうにタオルで滴り落ちる汗を拭っていた。  二人の傍で山田君が「もう、お前らあっちーんだよ、散れって!」と、半分怒りながら、周りに群がる人だかりを手で追い払っていた。その効果があったのか、暫くすると、潮が引くように人が散って行った。それを見計らって朝比奈さんが声を掛ける。 「お疲れ様ー! 大健闘だったね!」  彼女の言葉に山田君が「俺は一回目で失敗したけどな!」と笑い、朝比奈さんが「山田はリレーで頑張るしかないね」と返していた。その二人の会話を眺めていると、山田君と目が合った。 「あ! 東條さん!? 気付かなかった! ポニテ!? かわいいね! 俺、好きなんだよ!  その髪型~~!」  彼は私に近付き、「この後ろの縛ってる所がぴょんぴょん揺れるのが可愛いよね」と言いながら、そっと後ろ髪に手を伸ばした。あまりにも自然な流れだったので、「触られる」と思っても目で彼の手を追う事しか出来なかった。  その時、「山田」と制する声が聞こえた。  私の髪に触れようと伸ばされた山田君の手首を誰かが握っていた。その先を辿るように顔を上げると、笑顔を張り付けたような表情をしている間宮励がいた。 「れ、励……? なんだ?」 「お前、さっきライン引き触ってただろ。手に粉とかついてんじゃね?」 「粉? あっ、まじだ。ついてるわっ!」 「ったく……。そんな手で女の子の髪、触ろうとしたのかよ」 「うわぁ……! 東條さん、ごめんなー。俺、妹が二人いてさ、良く髪を結んであげたりしてて、その癖がついちゃってるのか、すぐ女の子の髪とか、触っちゃうんだよね」  山田君が慌てたように両手を合わせて謝った。そんな彼の様子に私の方が動揺してしまい、「だ、大丈夫、で、です」と、おどおどしながら返す。「とりあえず手洗ってきた方が良いかもよ」という間宮励の言葉に「そうするわ!」と言い、水飲み場の方に走って行った。
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