277人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、あの、さっき、一位、おめで、とう、ございます」
そう言うと、彼は顔を此方向けて「ありがとう」と微笑んだ。いつも表情が無い彼の顔が、時々柔らかくなるこの一瞬は、なんだか貴重なものを見れた喜びを少し感じてしまう。
「す、凄かったです、ほ、本当に」
「うん、東條が見てたから」
「え?」
「東條のお陰だよ」
ーー私のお陰?
「頑張って応援してくれてただろ?」
もしかして、あんなに小さな声だった私の応援が、聞こえてたのだろうか。
「わ、私の声、き、聞こえてたんですか……?」
その事に驚いて、つい思った事が口に出てしまった。そんな私の様子に彼は目を細めて「ちゃんと届いたよ」と言う。
「よ、良かったです……! こ、こんな私の、お、応援が、す、少しでも、あ、秋森君の、力に、な、なったのなら」
純粋にそう感じた。
今まで体育祭のようなイベントは苦痛でしかなかった。運動音痴で、誰かの応援をしようにも、自分のような人間の言葉など、誰が貰って嬉しいものかと思っていたから。だからこそ、今回、秋森君が良い結果を残す事ができ、「東條のお陰だよ」と言われたら、例えそれがお世辞だとしても、今まで感じた事のない達成感に似た喜びが湧いてきたのだ。
それに、なんとなくだが、彼はお世辞でそんな言葉は言わないような気がする。本心からの言葉だとすると、素直に嬉しい。
「ふ、不思議、ですね。わ、私が、と、飛んだわけではないのに、な、なんだか、と、とても、う、嬉しいです」
自然と頬が緩むのが分かる。自分で言っててなんだか恥ずかしくなり、秋森君の顔が見れなかった。
「……東條、俺、お前に謝ろうと思って」
少しの間を置いて、彼は唐突に言った。
「……え?」
予想もしていなかった彼の言葉に驚き、間抜けな声が出てしまった。
最初のコメントを投稿しよう!