第6章

34/41
前へ
/293ページ
次へ
   秋森君に謝られることなどあっただろうか。頭を巡らせても、全く身に覚えが無く、首を傾ける。  そんな私の様子に気付いた彼は、気まずそうに視線を逸らしたあと、「夏祭りの時に俺が言った事なんだけど……」とぼそりと呟いた。 「夏休み中、ずっと考えてた。もしかしたら、東條を余計に追い込むような事を言ってしまったんじゃないかって」  彼が何を言おうとしているのか分からず、彼の言葉に寄り添うようにそっと耳を傾ける。 「間宮の事……東條の気持ちを深く考えずに、勝手に゛やめろ゛って言っただろ」 ーーあ……。  確かに言われた。  でも、そう言われてしまうのは仕方ないことで、秋森君が謝る事ではない。彼は何も悪くない。  なのに、夏休みの間、その事をずっと気に掛けていてくれたのだとすると、とても申し訳なく思ってしまった。  秋森君は真面目で優しいな人だ。私の間宮励に対する気持ちに気付き、苦言を呈したのも、間宮励の事が嫌いだからとか、そういう簡単な理由ではないはず。秋森君の事だ。きっと、私の事を思っての言葉だったのだろう。 「あっ、の……! あ、謝る、ひ、必要なんて、な、ない、ですっ! む、寧ろ、わ、私の方こそ、ご、ごめんなさい」 「……どうして、東條が謝るんだ?」 「ず、ずっと……あれから、か、考えて、くれてたんですよね? わ、私の事なのに……。あの時、あ、秋森君が、言ったことは、ま、間違ってない、と、お、思うので……。あ、秋森君が、き、気にすることなんて、な、ない、です。だ、だ、大丈夫、ですから、本当に。だ、だから、そ、その……あ、ありがとうっ、ございます……!」 「え……?」  秋森君は切れ長の目を丸くした。おどおどとした私の視線も、その時に、漸く彼の視線と重なり、お互いが見つめ合う形となった。
/293ページ

最初のコメントを投稿しよう!

277人が本棚に入れています
本棚に追加