第6章

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 秋森君との距離が少し縮まったような気がして、心がほっこりと暖かくなった。 「あ、あと……。秋森君に、き、聞いて欲しい、こ、ことがあって……」  そう言うと、彼は「何?」と耳を傾けてくれた。優しい眼差しにほっと胸を撫で下ろし、「ま、間宮君の事なんだけど……」と、言葉を続ける。 「あ、諦める為には、か、彼を、さ、避けることしか、おも、思いつかなくて。で、でも……それだと、ま、間宮君を悲しませてしまう、から……。その、だから……。じ、自分の気持ちを、う、受け入れた上で、友達として、かれ、彼と、む、向き合って行こうと思って……。じ、自分の気持ちを、ごま、誤魔化す事は、大変かもしれないけど、へ、変に避けて、彼に嘘をついて、かな、悲しませるよりかは、い、良いと思って……」  言っている途中で、膝の上に置かれた両手が微かに震えた。しかし、横で黙って私の言葉を聞いてくれている秋森君がいたから、最後までなんとか話す事が出来た。  話し終わった後、深く深呼吸をする。暫く間を開けて、彼が口を開いた。 「東條が決めた事なら、そうすれば良い」  「辛くなったら俺が傍にいる」 その言葉は、どこまでも暖かく優しかった。 「はい……っ」  力強く頷くと、秋森君の表情が柔らかくなった。  まるで大切な何かを見詰めるような眼差しを向けられてしまい、少しばかり胸の内が歯痒くなる。 それを誤魔化すように「あの!」と言って立ち上がり、横の自動販売機に小銭を入れて何種類かあるスポーツドリンクの一つを選び、ボタンを押した。そしてガタンと音を立てて落ちてきたそれを、取り出し、秋森君に渡す。  突然の私の行動に、彼は驚いた表情をした。 「お、お礼です……! な、夏祭りの時、とか、た、沢山、ご馳走になって、し、しまったので……っ」  勿論、スポーツドリンク一本くらいでお返しになるとは思っていないのだが、言葉だけでなく、少しでも秋森君の役に立ちたかった。 「ありがとう」  受け取る瞬間、彼の大きな手が自分の手と重なった。ほんの一瞬だが、触れた手の体温が自分の手より暖かく感じた。  
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