第6章

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「どうして、俺がここにいるんだろうとか、思ったでしょ」 「えっ、あ、はい……」 「山田達に満の応援したいからって言って、抜けてきたんだ。男子の殆どが、これ見に来ているから、他の競技している奴等に悪いだろ? そしたら、満の所に、東條さんもいると思ったんだけどいなくて、場所知らないのかなと思って探してたんだ」  見つかって良かったと、間宮励はほっとしたように小さな息を漏らした。  場所が分からなかったわけではないのだが、自分の事をわざわざ探してくれた人を前にして、本当の事を言うのはなんだか気が引けてしまい、代わりに「ありがとうございます」とお礼を口にする。 「そろそろ満の番も来るだろうし、一緒に行こうよ。クラスメートの応援をするんだから、今日くらい俺達が二人でいてもおかしくないと思うし」  「な?」と笑い掛けられ、間髪入れずに心臓が跳ねた。  彼の言葉にコクリと頷き、彼の少し後ろを付いて行く。  ーーこれ、渡さないと……。  気持だけ焦り、スポーツドリンクを持つ手に力が入る。情けないことに、周りの女子の目が気になり、中々話しかけられずにいた。  ああ、どうしよう。このままだと、どんどん温くなってしまう。  すると、少し前を歩く間宮励が振り向いた。「どうした?」と言い、足を止めた彼に、今しかないと思い、手に持っていたスポーツドリンクを渡す。 「あ、の……これ。喉、乾いてると思ったので……そ、その、あ、秋森君に言われて」 「俺に?」  「はい」と答える代わりに、頭を縦に何度か動かした。 「ありがとう、ちょうど何か買おうと思ってたんだ」  彼はそう言って、嬉しそうに顔を綻ばした。その顔を直視することが出来ずに、咄嗟に目を逸らす。 掌が汗ばむのが分かる。 たったそれだけで、体温が上昇してしまうなんて、本当に厄介だ。そう心中で愚痴を溢した時、間宮励は唐突に話を振ってきた。 「今まで秋森といたの?」  その言葉に「は、はい」とそれとなく返事する。すると、「本当に仲が良いよね、二人は」と返ってきた。なんとなく棘のあるような言い方に、困惑が心の中を巡る。  
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