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この人はどうしてこうも、歯が浮く様な台詞をぽんと言えるのだろうか。
嬉しくないわけがないのだが、やはり少し恥ずかしくて、冷静を装いながら口を開く。
「こ、声、き、聞けて、良かったです。わ、私も……お、同じ、気持ちだったので」
『本当? 嬉しい。自分だけ舞い上がってたら恥ずかしいなって思ってたから』
電話の向こうで彼が嬉しそうに微笑んでいるのが、その声色を聞いて伝わってきた。
なんだか、全然、実感が湧かない。
あの間宮励と付き合っているなんて。
でもこうやって話をしていると、手の届かない存在だった「間宮励」が身近な存在へと変わっていくことを実感しているのは確かだった。
ただのクラスメートでもなく、私が想いを寄せるだけの「間宮励」でもないんだ。
『ーー東條さん? どうかした?』
「あっ、す、すみません……。は、話の途中で、ぼーっと、し、してしまって」
『何か心配事?』
「ち、違い、ます……。ただ、ちょっと、し、幸せだなって」
『え?』
「ま、間宮君と、つ、付き合う、ことが出来て……ゆ、夢みたいに、幸せなことが起きてて……」
『夢じゃないよ。現実だから、安心して』
彼は落ち着いた声色で言う。
その声が、溶けそうなくらい甘く聞こえ、思わず口元を覆ってしまった。
電話してるだけなのに、その声だけで胸がギュッと苦しくなる度に、とれほど彼の事を好きかっていうのが分かってしまう。
今更になって気付く。
間宮君のことをただ想っているけなんて、私には無理だったんだ……。
『じゃあ、もう遅いし、また明日』
「あ、はい……おやすみなさい」
『うん、おやすみ』
電話を切ると、途端にやってくる虚しさに小さな溜め息が出る。
「ーー恐いなぁ……」
これ以上、好きになって、どんどん欲ばりになってしまったら、きっともう後戻りは出来なくなってしまいそうだ。
例え一時でも、間宮励という存在と付き合う事が出来て、とても幸せなのに、それと同時に、その幸せを失った時を考えると、とても恐い。
人との繋がりに絶対は無い。ましてや、全く正反対の二人ならば尚更で、いつか彼が私に飽きる日が来た時、清く彼を諦めることが出来るのか、今の私には分からなかった。
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