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「ーーおめでとう。これ、付き合うことが出来たお祝いに」
昼休み、図書室にて秋森君はそう言いながら、パックの苺牛乳を私にくれた。食堂の前の自動販売機に売られている人気の商品だ。
「これ、あ、秋森君のじゃ……?」
「気にするな。遠慮せずに受け取って欲しい」
図書室内では飲食厳禁である為、私は「ありがとう」と一言返し、貰ったそれを両手で包み込む。その私の手の様子を、秋森君は目を細めながら眺める。
秋森君には、間宮君のことに関して、時々相談に乗って貰ったこともあって、先ほど、感謝の気持ちも込めて、間宮君と付き合い出したことを報告した。私の突然の報告に、彼はほっとしたように息を吐いて優しい瞳で私を見た。
「東條が幸せそうで、俺も嬉しい」
「わ、私、そんなに、か、顔に出てますか……?」
それはそれで恥ずかしいのだが……。
だとしたら、意識して顔を引き締めておかないと、すぐにニヤニヤとしてしまいそうだ。
「いや、まあ……。東條は、普段から顔が静かだから、今くらいがちょうど良いと思う」
秋森君はそう言った後、そっと手を伸ばして、私の右耳の上あたりに触れる。
「これ、ずっと付けてくれているよな」
彼の言う゛これ゛とは、以前、秋森君から頂いたヘアピンのことを指しているのだろう。
青と白の綺麗な花の形をしているそれは、一目見た時からすっかりとお気に入りとなっており、ほぼ毎日付けている。他のアクセサリーもいくつか買ってはみたものの、中々、このヘアピンに敵うものはない。
「間宮と付き合うことになったんだ。これから、あいつから沢山貰えると思うし、いつでも捨てて構わないからな」
「え……、捨てる?」
「間宮も、自分の彼女が、自分以外の男から貰ったものをずっと持っているとか、嫌だろうし」
そういうものなのだろうか……。
秋森君は、私から目を逸らし、そっと床へと視線を落とした。
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