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少しの沈黙の間の後、私は口を開いた。
「ーーそれでも、こ、これは、私の大事な、た、宝物……ですから」
「え?」
「た、大切な、友達から貰った、大切なものです……。きっと、間宮君も、わ、分かってくれます。だ、だから、絶対に、す……捨てたりしません」
私の言葉に、秋森君は驚いたように目を見開いたあと、くすりと笑った。
その姿に、私の口元も自然と緩くなり、二人のくすくすと小さく笑い合う声が、静かな図書室に響き渡る。
「……東條のそういう所、本当に好きだ。中学の時から全く変わらない。どんな人間に対しても一人一人と向き合おうとする姿勢は、東條の良いところだよな」
「わ、私の、良い、ところ……?」
「簡単なようで難しい。誰もが出来ることじゃないよ」
「そ、そんな……た、大層な事は、何一つ、してない……」
「そうか? 少なくとも俺には全く無いものだ。どうでも良い人間はどうでも良い。挨拶されようが何されようが、本当に、どうでも良い。結構、冷たい男だろ?」
「……わ、私も、似たようなもんです。 ク、クラスの子の名前を覚えるのとか、と、得意じゃないし……。そ、それにっ! あ、あき、秋森君は、冷たい人じゃないことは確かですよっ! ひ、一人ぼっちの私に、い、いつも、挨拶をしてくれてたじゃないですか……」
「それは、俺が東條をーー……。いや、なんでもない」
「? ……あ、秋森君。こ、こうやって、私が、い、一歩踏み出して、ま、間宮君と付き合うことが出来たのも、きっと、秋森君や朝比奈さん達のお陰……。秋森君が、困った時が来たら、わ、私、直ぐに、ち、力になれるように、が、頑張ります……!」
「……ああ、すっごく、頼もしいな。その時は、間宮が嫉妬するくらいには、沢山甘えさせて貰おうかな」
秋森君が冗談っぽく笑って言うものだから、私もつられて笑う。
「だ、大丈夫。ま、間宮君が、嫉妬することは、きっと、無いですよ」
そう言うと、秋森君は「少しだけ間宮が不憫だな」と呟いたので、その言葉に首を横に傾けた時、タイミング良く予鈴が鳴り響いた。
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