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本日最後の授業の終了を知らせるチャイムが鳴り響く。それと同時に「はい、じゃあ今日はここまでな」と、数学の先生が言うと、周囲が一斉に煩くなった。
「放課後デートとか羨ましい! 緊張しすぎないようにね」
朝比奈さんはそう言って、私の両手をぎゅっと握る。
放課後デートという聞きなれない言葉に、ドキっとした。勿論、その放課後デートをするのは、他の誰でもない自分なのだが、如何にも可愛い女子高生限定の単語に、恐縮する。そんな私の様子を気に掛けてくれたのか、朝比奈さんは「ほら、リラックス~」と言って優しく背中を撫でてくれた。
彼女には、間宮君から告白をされたその日に、彼と付き合うことを報告した。
電話の向こう側で、自分のことのように喜んでくれた彼女の声を聞き、たった一人でもそういう風に他人の幸せを心から祝福してくれるような友人を持つことが出来た事に、幸せを感じずにはいられなかった。
「が、がんばり、ます……!」
「うん!」
私が片手で小さな拳を握るのを見て、朝比奈さんも同じように拳を握り、力強く頷いた。そして、「バイトだから先に帰るけど、もし何かあったらいつでも連絡してね」と言いながら手を振り、教室を後にした。 そんな彼女に、私も手を振り返す。すると、廊下側の席に座っている間宮君とタイミング良く目が合ってしまい、咄嗟に逸らしてしまった。
……なんだろう。
とてつもなく恥ずかしい。
こんな調子で、これから彼と放課後デートなんて、心臓が持つだろうか。とても不安だ。
私と間宮君の関係は、秋森君と朝比奈さん以外は誰も知らない秘密の関係だ。その為、学校を出るタイミングも、生徒の殆どが帰宅、もしくは部活動に行った後だ。
クラスメートが次々と教室から出て行くのを横目で眺めていると、ポケットの中の携帯が振動した。確認すると、間宮君からだった。
――十六時過ぎに裏門で待ってる
その文を読み合わったと同時に顔を上げると、再び、彼と目が合った。
今度は逸らさずに、メール内容に答えるように小さく頷くと、彼はクスッと優しく微笑み返してくれた。
たったそれだけのことなのに、なんだかむず痒い。
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