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1時間程も、その公園で待っていた。
「……ばかだな」
呟いて空を見上げた、高層ビルに囲まれた空は小さかった。その空から昨日は少女が降って来たが、今日は静かなものだった。
「何を……期待、してたんだ……」
座っていたベンチから立ち上がる。
具体的な時間は約束していなかったから、あと5分後か、いやあと10分したら…などと時間が過ぎるのを悪戯に待っていた。でももう『この時間』と言うには不自然な時間になっていた。
期待、していたのか。
何度も自問自答し、決心する。きっと聞き違いだったのだと。自分が想像した言葉だったのかもしれない。
大きな溜息が出た。
もう一度会ってみたかった、もう一度、あの声を聞きたかった、せめてもう一度だけ目を見て──。
何故か溢れそうになる涙を堪えて歩き出した。
「待って!」
声が聞こえたが自分を呼び止めるものだとは思わなかった。
「待って! カイル、お願い!」
さっきより大きくなった声がはっきりと自分を呼んだ。
振り返ると金色の髪が視界に飛び込んだ。
アリアだと認識するより前に、手首を掴まれ前方へ引っ張られた。
「え、なん…」
「走って! エイルに捕まっちゃう!」
いくつもの交差点を曲がり、人混みを掻き分け、あるいは裏通りに入り、二人は走り続ける。
やがて人影のない裏通りで、アリアはようやく足を止めた。
「もう……平気かな……とりあえずエイルの気配……ない……」
肩で呼吸しながら言った。
カイルはアリア以上に息が上がり、心臓は破裂しそうな程鼓動を刻んでいた。
「勘弁……してくれ……こんなに走った事、ない……」
壁伝いに崩れるカイルを見るアリアは、早くも呼吸が整っていた。
「ごめんなさい、遅くなって。なかなか監視の目が盗めなくて。挙句にエイルが朝からずっとつきまとってて……約束を察してたのかしら」
言って嬉しそうに微笑むと、カイルの傍らに跪き、ぎゅっとカイルの肩を抱き締めた。
「う、ごめん、今はまだ待って……」
呼吸が整わないカイルには、ちょっと酷な仕打ちだった。
「逢えて……嬉しい……!」
耳元で囁く様に言われ、カイルは呼吸するのも忘れそうになった。
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