【カイル】

8/12
前へ
/35ページ
次へ
*** 1時間程も、その公園で待っていた。 「……ばかだな」 呟いて空を見上げた、高層ビルに囲まれた空は小さかった。その空から昨日は少女が降って来たが、今日は静かなものだった。 「何を……期待、してたんだ……」 座っていたベンチから立ち上がる。 具体的な時間は約束していなかったから、あと5分後か、いやあと10分したら…などと時間が過ぎるのを悪戯に待っていた。でももう『この時間』と言うには不自然な時間になっていた。 期待、していたのか。 何度も自問自答し、決心する。きっと聞き違いだったのだと。自分が想像した言葉だったのかもしれない。 大きな溜息が出た。 もう一度会ってみたかった、もう一度、あの声を聞きたかった、せめてもう一度だけ目を見て──。 何故か溢れそうになる涙を堪えて歩き出した。 「待って!」 声が聞こえたが自分を呼び止めるものだとは思わなかった。 「待って! カイル、お願い!」 さっきより大きくなった声がはっきりと自分を呼んだ。 振り返ると金色の髪が視界に飛び込んだ。 アリアだと認識するより前に、手首を掴まれ前方へ引っ張られた。 「え、なん…」 「走って! エイルに捕まっちゃう!」 いくつもの交差点を曲がり、人混みを掻き分け、あるいは裏通りに入り、二人は走り続ける。 やがて人影のない裏通りで、アリアはようやく足を止めた。 「もう……平気かな……とりあえずエイルの気配……ない……」 肩で呼吸しながら言った。 カイルはアリア以上に息が上がり、心臓は破裂しそうな程鼓動を刻んでいた。 「勘弁……してくれ……こんなに走った事、ない……」 壁伝いに崩れるカイルを見るアリアは、早くも呼吸が整っていた。 「ごめんなさい、遅くなって。なかなか監視の目が盗めなくて。挙句にエイルが朝からずっとつきまとってて……約束を察してたのかしら」 言って嬉しそうに微笑むと、カイルの傍らに跪き、ぎゅっとカイルの肩を抱き締めた。 「う、ごめん、今はまだ待って……」 呼吸が整わないカイルには、ちょっと酷な仕打ちだった。 「逢えて……嬉しい……!」 耳元で囁く様に言われ、カイルは呼吸するのも忘れそうになった。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

156人が本棚に入れています
本棚に追加