【カイル】

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人に触れられた覚えがない、人に触れた記憶も……そのカイルを、抱き締めてくれる人がいる、それだけで奇跡だった。 恐々、その背に手を添えた、人の体が温かいと、初めて知ったような気がした。 「監視……って」 カイルは声を絞り出した。 アリアは少し離れると、哀しそうに微笑んだ。 「私の父は、あなた達を生み出した、狂人と呼ばれた科学者よ」 「え……」 カイルにもはっきりとは伝えられていない事だ。 狂った科学者がサリファを大量生産しようとした、しかしそれは明るみに出て関係者は皆処刑、産まれてくる筈だったサリファも三人を残して処分された。 「父が野望を抱いた理由は知らないけれど、純血のサリファを作り出した事は間違いない。政府は純血種を嫌っている。だから実験台のあなた達は監視出来うる三人だけを残して処分し、私も犯罪者の娘と言う理由で一日中監視下に置くことにした。私も、純血のサリファだから野放しにしたくないんでしょうね。エイルとは幼い時から一緒よ」 アリアは溜息を吐く。 「エイルも、どちらの味方なのか判らなくなる時があるの。頼りになるときもあるけど、任務に忠実と言うか、融通が利かないと言うか……時々息が詰まる時が」 「……それで、逃げ回るんだ」 「たまにね。一人になりたい時もあるじゃない」 それは『たまに』ではない笑みだった。 「……時々聞いてた、他にも『黒』がいる事。エイル以外の人がどんな人なのか、ずっと逢ってみたかった」 アリアはカイルの手を取ると、そっと自分の頬に押し当てた。愛おしそうに目を閉じ、温かさを感じようとしているようだった。
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