〇一日目

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 休んだところで、特に何もすることのない僕が、有給休暇を五日間取ったところで何の意味もない。ただ、会社に行かなくていいという日が増える。それだけのことだ。  また、カメラに意識を向ける。  黄色一色のひまわり畑は太陽に近づこうと成長を続ける。中には僕の身長を遥かに超えるものもあった。そんな景色を見ていると、この世界を案じているようにも感じた。出来るやつはどこまでも自分を伸ばし続けるが、出来ないやつはいつまで経っても地面ばかりを見つめている。  そうして気がつけば、歴然とした実力差を目の当たりにする。  下に向けられたカメラをそっと持ち上げ、ファインダーを覗き込む。そして、また一枚、また一枚とシャッターを切る。優越としたひまわりが僕にそれでいいのかと語りかけてくる。それに応えるように僕は何度もシャッターを切った。  太陽が自分の頭上に来て、そろそろ今日一番の暑さを迎えるだろうと手で太陽を隠す。視線が太陽から逸れ、ひまわりに再び向けられたとき、僕は運命を迎えた。    黄色一色だったはずのそこに、白いワンピースを夏のその風に靡かせた黒髪の彼女は静かに立っていた。  一目惚れだった。  僕はそっとカメラのレンズを彼女に向ける。  綺麗だった。  黄色と白のコントラストが、互いの良さを引き立たせている。  夏の暑さを忘れた。  僕は彼女とひまわりに夢中だった。  鼓動が高鳴る。  子供の頃によくしていた虫取りのように、取りたい何かを逃がさないように近づく。そして、僕は黄色一色の中で異彩を放つ彼女に声をかける。 「あの……」  彼女は僕の方を振り向く。 「はい……?」  僕には勿体無いほどの透き通る美しい白い肌と二重でしっかりとした目。その綺麗な目が僕を見つめる。 「僕と付き合ってくれませんか?」  自分の口から溢れ出た言葉に驚く。僕みたいな人間は、告白というものをせずに一生を終えると思っていた。  もちろん、僕の言葉に彼女は驚いていた。それもそうだろう、いきなり声をかけてきた冴えない男に告白されたのだから。彼女は複雑な表情で呟くように言った。 「ごめんなさい。今、私は人と一緒にいてはならないの」  僕はその答えにどこか安心していた。いつもどおりだ。普段とは違った行動を取ってみても、結果が変わることはない。 「いや、あなたがという話ではなくてね。これは私の問題で……」
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