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 紅くて丸いブリキ缶。  振ると、カラコロ音がする。  カラコロカラコロ缶カン鳴らし、その子はひょっこり現れる。  おかっぱ頭に紅い頬。  部屋でも、庭でも、畑でも、どこにいたって、大きなお目々で俺を見つけて、駆け寄ってくるおチビさん。  ブリキ缶を差し出して、「あーけーて」と歌うようにねだるのが"お決まり"だ。  やれやれ、まったく。  おチビさんの傍には、ちゃんと彼女の祖父母がいる。  それなのに、どうしてこの子はわざわざ、こんなうだつの上がらない居候なんぞに懐いてくるのやら。  ご要望通りに蓋を開ければ、お日様みたいな金色と、苺のような紅がお目見えだ。  山型の二色の飴が、缶の中でお行儀よく整列し、誰かの口に入れられるのを今か今かと待ちわびていた。  はい、と缶を手渡せば、小さなふっくらとした指が、紅い飴を一粒大事そうに摘まむ。 「こっちがいいほうなの。あーん、してください」  そう告げて、おチビさんはグイグイと、こちらの閉じた唇に飴を押し付ける。  一日一粒、おチビさんが俺にだけ差し出すゴチソウ。  なんでも、缶の中身がなくなれば、この子にとって"いいこと"が起きるらしい。  だからこの子は、俺に中身を減らす手伝いをさせているのだ。  俺はいい、と言っても、聞きやしない。  最初に飴を差し出された、頑として断った結果、大いに泣かれてしまった。  幼子の号泣の、なんとまあ激しいこと。  俺に飴を喰わせることに、命でもかけているのかと思わせる程の大号泣だ。  小さい体に見合わない、膨大な量のエネルギーの放出に圧倒され、苛烈な泣き声により与えられる鼓膜へのダメージに堪え兼ね、とうとう観念してしまった。  この子に泣かれては、厄介だ。  そう痛感した俺は、以来、おチビさんから差し出される物は、黙って受け入れることにしたのだった。  パクリと飴を口に含む。  偶に、おチビさんの小さな指まで食べてしまうのはご愛嬌。  丹念に炊かれた飴は香ばしく、優しい甘さは口の中でいつまでも残った。  おチビさんも金色の方を口の中で転がしながら、飴の美味さに血色の良い頬を更に高潮させ、口角を限界までつり上げて満面の笑みを浮かべる。  実に美味しそうに飴を食う子だな、と感心していると、ふと彼女がこちらを窺い、目を細めてにっこりと笑う。  悪意に曝されぬよう、周囲の大人達に大切に庇護された幼子だからこそ見せられる、屈託のない笑みがそこにあった。 「おいしいねえ」  同意を求められたので、頷いてみせる。  すると、同意を得られたのが嬉しかったのか、ご機嫌な顔で俺ににじり寄り、胡座をかいた脚の間に坐り込んできた。  居心地の良い場所を求めて身じろぎすること十秒。  据わりの良い場所を見つけた彼女は、満足げに頷いた後、何が楽しいのやら、コロコロと笑い声を上げた。  ああ、なんだろうな、この気持ちは。  俺はこの、花開くような満面の笑みを浮かべる少女を見ると、どうにもくすぐったい気持ちにさせられるのだ。  彼女につられて、思わず笑いたくなるような。  彼女が笑うと、胸の奥がポカポカと熱を持ち、気が緩むような。  なんとも心地良い気分にさせられるのだ。  この子に邪気や悪意を近付けたくない。  笑顔を曇らせてはいけない。  ずっと笑っていて貰いたい。  この子に出逢って初めて、俺はいとおしいという意味を知った。
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