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「僕、今日で綾瀬……いえ、琴乃先輩との勝負から降ります。そして恭介先輩、貴方と琴乃先輩を賭けて勝負します」  琴乃の腕をしっかりと掴んだ瞬が、恭介に宣戦布告する。 「え、え、それ、どういう意味?」  瞬の言動をまるで理解していない琴乃が、間抜けな声を上げながら意味を問う。しかしそうしている内に、それまで黙っていた恭介がズンズンといった様子でこちらに近づいてきて。  そして、瞬が掴んでいる腕の反対側の腕を、大きな手で掴んだ。 「瞬がそう来るとはなぁ」 「あれ、てっきりもう気づいていると思っていましたよ。だって恭介先輩、僕と琴乃先輩がお菓子作りを始めた頃から、僕のこと怖い目で見てたでしょう?」 「何だ、そっちこそ気づいてたのかよ」  瞬に指摘された恭介が、クスリと笑う。 「余裕そうですね。でもあまり気を抜いていると、いつの間にか『近くを泳いでた魚を先に釣られた』なんてことになりますよ」 「言うじゃねぇか。分かったよ、今まではお前に遠慮してた部分があったが、その必要がなくなったってんなら躊躇せずに押し切ることにする。そっちも覚悟しておけよ」  琴乃を間に挟んだ二人が、不敵な笑みを浮かべたまま静かに睨み合う。その様子を見上げていた琴乃は、終始頭にハテナマークを浮かべることしかできなかった。 「ねぇ、何なの? 意地悪してないで、教えてよ」 「先輩、案外鈍感なんですね……」 「あのなぁ、人には散々見え見えのアプローチしといて、いざ自分に好意向けられると気づかないなんて、お前どうにかしてるぞ」  口々に言われ、漸く意味を悟った琴乃が、ハッと大きな瞳を開く。 「ま、まさか……嘘よね、そんな……」  嘘だ。いつの間にか三角関係の中心が、自分になってしまっていたなんて。 「ま、そういうことだ。楽しくやろうぜ」 「これからもよろしくお願いしますね、先輩」  琴乃の腕を引きながら、二人が歩き出す。その時、ちょうど鳴った予鈴のチャイムが、まるでファイトゴングのように聞こえたのは、きっと琴乃だけだろう。
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