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 綾瀬琴乃は今日、一世一代の告白をした。 「私、ずっと恭介君のことが好きだったの」  冷たくも爽やかな十二月の風が、琴乃の絹糸のような長い髪をサラサラと揺らす。  琴乃は続けて少しだけ顎を引くと、大きな瞳で真っ直ぐに告白した相手、仙石恭介を見つめた。いわゆる上目遣いというやつだ。 その姿は酷く儚げで、さながらか弱い美少女に映るだろう。きっとこのまま「ごめん」なんて答えが返ってきたら、ショックで卒倒してしまいそうなくらいに。 だが実際のところ、琴乃は全く緊張などしてはいなかった。何故なら彼女の頭の中にはその後の展開、つまり告白が必ず成功するという確信しかなかったからだ。  琴乃は恭介を好きになってから今日という日を迎えるまでの約一年間、『告白大作戦』と称して様々なアプローチを繰り返してきた。オタク友達から恋愛シュミレーションゲームを借りては男の落とし方を方々研究し、まずさりげない挨拶から作戦を開始。続けて度の過ぎない待ち伏せを繰り返した結果、ようやくバレンタインを終えた頃から親密度が上昇し、そして、とうとう今年の夏は二人きりで海に行く仲となった。その上での告白だ。断られるはずがない。  ――早く、返事くれないかなぁ。  儚げ少女を演じながら琴乃は返事を待つ。しかし次の瞬間、恭介から返って来た言葉は彼女にとって途轍もなく予想外のものだった。 「悪ぃ。気持ちは嬉しいけど、返事ちょっと待って貰えないか?」  恭介の深みがかかった闇紺色の瞳が困ったように翳る。  「……へ? なんで?」  ここは「俺も好きだったんだ」と抱きしめるのが筋じゃないのか。琴乃は桜色の頬を、微かに引き攣らせる。 「俺、今日、別の奴にも告白されてさ……そいつのことも考えてやらないといけないから」 「は? 告白? 別の奴? しかも今日っ?」  口から間抜けな声が上がった。
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