さとりの夏休み

7/13
1201人が本棚に入れています
本棚に追加
/230ページ
 泣いているさとりの肩を抱き、おろおろと慌てる壮介に、さとりはふるふると頭を振った。 「ち、違うの、おいら、こんなきれいな景色を見たことなくて。そうすけがおいらのためにここまで連れてきてくれたと思ったら、うれしくてどうしたらいいかわからなくなって……」  それきり言葉が続かないとばかりに黙るさとりの瞳は涙に濡れ、けれど喜びにきらめいていた。 「なんだ……」 『うれしくて泣いているのか……』  さとりが泣いている理由がこの旅行が嫌だったわけではなく、ただ感情の許容量を超えてしまっただけだと知って、壮介はその場に崩れ落ちそうなほどほっとした。 「○×△☆■○!」  現地のガイドが壮介たちを見て、指を「グッド」のかたちにする。何を言っているのかわからなかったが、その表情から仲直りをしてよかったとでも言っているのだろうか。  壮介はさとりの肩を抱きながら苦笑いすると、ほっと呼吸を吐いた。  壮介たちが宿泊するホテルは全室が水上コテージになっていて、水平線から上る朝日と沈みゆく夕日の両方を見ることができるらしい。広々としたアジアンテイストの部屋からはすぐ海に出ることができ、ウッド調の家具と白いリネンのカーテンや寝具が開放感と清潔感を醸し出している。各コテージの下には珊瑚が養殖されており、開閉可能なガラステーブルからは魚に餌を撒くこともできるという。 「そうすけ、見て見て! お魚が泳いでいるよ!」
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!