隣の幸せ

1.

「川上さんって人形みたいだよね」

またか。

まだ名前も知らないクラスメイトが言う。硬く響くその冷たい声は、鉄筋コンクリートを思わせた。無機質な、くすんだ色をした音。

侮蔑するように私を見るその目に、私は視線を正面からぶつける。だから何？私が人形みたいだからといってあなたに何か迷惑かけた？

答えずにただ見つめ返す私に、たいていの人は戸惑う。悪意を持って話しかけてくる人は特に。

彼女も例に漏れず、彼女が思った通りの反応をしない私に戸惑い視線をそらした。立ち去る彼女を眺めながら、私はつぶやく。バッカみたい。

　人形みたいと言われるのはいったい何度目だろう。もう数え切れないほど言われている私の心は、どんなに悪意を込めて言われても全く傷つかない。まさに人形なのだ。まるで暗示のように、催眠術のように、私の心は次第に感情と行動を失っていく。私から人間らしさを削り取っていく。