第1話 突然の坂道

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そして、この時期を狙ったかのように、母親から電話が来た。 『元気にしてる?』 「うん、元気だよ。」 もうこうなった以上、元気しか取り柄がない。 『お正月には、帰って来るの?』 「うーん。」 本当は、実家に帰ってグタグタしたい気分だけど、今年はそうもいかないみたい。 なんたって、新しい仕事見つけなきゃいけないもんね。 「もしかしたら、帰れないかもしれない。」 『なに、仕事忙しいの?』 「ん?うん。」 ちなみに母親には、会社を辞めた事も、契約社員になった事も話してはいない。 母親の中では、私はまだあのブラック企業で、働いている事になっている。 『頑張りなさいよ。あんたは、自慢の娘なんだから。』 「はははっ……」 その自慢の娘が、年越しを前に契約を打ち切られ、無職になりそうだと言ったら、母親は失神してしまうんじゃないか。 そんな事を思った。
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