恋をするために

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 いつもの夢を見て、目を覚ます。  前の私が死に、同時に恋に落ちる夢。  ベッドの上で一度大きく伸びをすると、朝の支度をするために動き出す。  いつもの夢をかすかなトキメキを私に残す。  いや、厳密に言うと夢ではない。過去の反芻に過ぎない。  私には、前世の記憶がある。一から十まですべてを覚えている訳では無い。だけど、前の私がエリーナという人間で、当時の権力者の娘で、最期は庭師の息子に殺されたことは覚えている。  鏡の前で身支度を整える。祖母から贈られたネックレスを手に取り、結局また置いた。やはり付ける気にはなれない。首元に何かをつけるのは苦手だ。  思い出す。あの掌の熱。  前の私は首を絞められて死んだ。だから、今の私も首に何かを巻くのを躊躇ってしまう。
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