ひんやりしている

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 好奇心が恐怖に勝ってさっきの方へ引き返すと、人混みの中に丸い空間ができていて、真ん中に人が倒れていた。  近づきはしたものの、一瞬状況を目にするだけに留めて、俺は慌ててまたその場を後にした。だって、その人垣のギリギリまで、刺すような冷気が張り詰めていたから。  冷たさを感知するだけで、俺自身は被害に遭ったことはないけれど、今あそこには、何かとんでもない危険なモノがいるようだ。それは今まで感じたことがないくらいの冷たい空気で察することができた。  救急車の音が程なく聞こえて、すぐに遠くなったから、あれ以上の被害は出なかったのだろう。  異常が判っていたのにただ逃げただけ、という罪悪感は多少なりあったけれど、俺は幽霊の気配を温度で感じられるだけで、立ち向かう能力とかは持っていない。だから危険を察したら逃げるしかできないんだよ。  臆病者の対応かもしれないけれど、人間、ヤバいことには首を突っ込まない方がいいもんだろ。  今までそうやって生きて生きた。だからこの先も、俺は、逃げられる状況では、あのひんやりとした空気を感じたらすぐさまその場から逃げることだろう。 ひんやりしている…完
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