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ひんやりしている
幽霊を見たことはない。でも感知はしょっちゅうしている。
奴らが近づくと空気がひんやりするんだ。どんなに暑い日でもそのひやっとした感覚は一緒で、幼い頃はそれが何か判らなかったけれど、育つにつれ、周囲の反応で、多分それが霊的なモノの存在だと理解できるようになった。
ひんやりした空気を感じるのはたいてい真夜中だ。
寝ていると、空気が冷たくなって目が覚める。もちろん暗がりには何も見えないけれど、空気の感触が変わるまでそこには何かがいるんだろう。
害を加えられたわけじゃないから、特に苦にはしていない。むしろ、こちらが移動可能な状況でこの空気を感じたら、さっさと自分からその場を離れられて便利だと思っている。
あの日も、俺は外出先でこのひんやりとした感覚に見舞われた。
駅前でちょっとした催し物が開かれていて、周囲は人で混雑していた。その、むしろ暑いくらいの人混み内で、いつも感じるひんやりとした空気に触れたのだ。
周りの誰が幽霊なのかは判らない。そもそも見たことはないから、人混みの中に見えない何かが紛れている可能性も高い。
ただ、見えなくても習慣的にひんやりした空気を避けようと、俺は冷たさを感じる辺りと逆の方向へ足を向けた。
やがてあの独特の空気感がまとわりつかなくなり、完全離れたなと思った頃、今来た方向から悲鳴が上がった。
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