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キッチンにいた二人。僕とオヤジ。
会社の女子社員が美味しい店を教えてくれたと買ってきたアップルパイ。
「お前は好きだったろ。女子はよく知っているよなあ。駅前のビルより通り一つ入ったところの
ケーキ屋さんが美味しんだって。小さくて見過ごしやすい店でウィンドウには古い人形なんかも置いてたりするから、ちょっと見ではケーキ屋とは気づかないくらいさ」
オヤジは上機嫌なのかよくしゃべる。
「何かいいことでもあったの?」
冷蔵庫から冷たい水をコップに移す。
「なんだ真亜絲。いいことがないとケーキも買っちゃあいけないのか」
オヤジは不愉快そうに言った。
「いや。別に」
「ごちゃごちゃ言ってないで早く食べてしまえ。ほんと、お前は・・・」
オヤジは不機嫌を隠さずに黙って部屋に入っていった。
テーブルに置かれたケーキの箱のリボンだけが生々しく彩色される。
リボンの色を横見にアップルパイを一口だけ囓った。
「ピンク、・・・かよ」
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