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まず鏡を用意してください。そうして自分の眼を覗き込んで御覧なさい。黒目の中心にある点に沿って湾曲しながら、一本の筋が入っているのが見えないでしょうか。ちょうどLEDのように赤く光っていて、よく目をこらしてみれば、アラビア数字であることが分かるはずです。
それが『運命の赤い数字』です。
ちょっと待て。そもそも数字なんて見えない、と仰る方が殆どでしょう。
確かに今まで私以外に、他人の目の中に数字が見えるなんていう人には会ったことがありません。けれども見えることを隠しているのかもしれませんし、ちゃんと見えているにも関わらず、まるで知らない外国の文字を見ているのと同じように、模様のようにしか意識していない人もいるかもしれません。
ですからもし心当たりのある方がおられましたら、どうか至急当社までご連絡ください。もし可能ならばわが社のサービスにご協力頂ければと思いますし、私個人として是非ともお願いしたいことがございます。それはまたすぐ後でお話しするとして、ひとまずそういう数字があるのだということで話を進めさせてください。見えない方にも、けして損はさせません。
赤ん坊からお年寄りまで、およそ数字のない人間というものはございません。それが全人類にあまねく配布されているであろうことは、たとえば「029974037」といったように、必ず九桁で表示されていることから察せられます。世界の人口は現在のところ七十億人とされているからです。
そうして全ての人に、『運命の人』がいるのです。つまりこの世界のどこかに必ず、あなたと全く同じ数字を持つ人間が存在しているのです。ですから数字自体は七十億をペアにした三十五億。それが全人類へ順番に「〇〇〇〇〇〇〇〇一」から「三五〇〇〇〇〇〇〇」という風に配布されていると考えられます。と言いますのも、私もまだ二十億以上の数は確認したことがないからです。
『運命の二人』が出会う確率は、単純計算でも三十五億分の一。もちろん必ずしも異性が結ばれるわけではないでしょうし、三十五億人の中には赤ん坊から高齢者まで含まれるわけですから、確率はもう少し変動するのでしょうけれども、宝くじに当たるよりも低い確率であることは間違いないでしょう。この点についても数字が完全に一致した人たちは見たことがありません。
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