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2 運命の出会い
彼女の“数字”は「182736450」だった。それが黒目がちの瞳の中で、暗闇に浮かび上がるように光っている。見られているとやはり緊張するのか、何度かせわしなく瞬きをして、高田若菜と名乗った女性は言った。
「あの、見えにくいですか」
「いえ、大丈夫です。分かりました」
と、俺はもう一度相手の眼を見直した。そうして油性ペンを手に取り、単語カードに“数字”を書き取る。カードをまとめているリングを外し、書いたものを彼女に差し出しながら、いつもの注意事項を述べた。
「いちおう個人情報みたいなものなので、他の人には見えないように管理してください。私の他に数字が見える人間に会ったことはありませんが、悪用する人もいるかもしれないので」
すると相手の様子がおかしい。高田若菜は何も答えずに、背筋を伸ばした姿勢のまま、カードをじっと見つめている。瞬きも殆どせず、呼吸すらも止めているみたいで、まるで時間でも止まったようだった。やがて大きく息を吐き出すと、潤んだ眼をこちらに向けてくる。
「もう一度見て頂けませんか」
こういう人はたまにいる。恋人か誰かが既に俺のサービスを利用していて、そいつの数字を聞き出している上、“法則”も聞きかじっているのだ。そうして自分の数字が好きな相手とあまりにも合っていないのを知り、ひどくショックを受けるのである。
おおかた同じパターンだろう。こういう場合は落ち着いた様子を見せたほうがよい。俺はゆっくり頷いて、高田若菜の眼を再び覗き込んだ。彼女はやや血走った眼でこちらを見返しながら、何度か手元のカードに眼を落している。それは何だか二つのものを見比べるような仕草だった。
「やはりその数字ですね」俺は間を置いて告げた。
高田若菜の顔は青ざめ、見るも無残にうなだれている。気の毒だけれども、こればかりはどうしようもない。俺は暗い雰囲気を吹き飛ばすように言った。
「さっそくマッチングをご利用なさいますか。きっとぴったりの相手と出会えますよ」
「いえ、やめときます」
「ではお気の向いたときに、いつでもご利用ください」
「私には必要ないんです。だって私も数字が見えますから」
今度は自分の顔が青ざめるのが分かった。
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