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「みーづーきー」
自分を呼ぶ声にはっとして目を覚ますと、朝のホームルームが終わろうとしていた。前の席の桜子がにやにや笑う。その額に美月はデコピンを浴びせた。
「痛っ、ちょ、美月」
「うるさい。黙って前向きな」
自分も寝ていたことは棚に上げて、美月は担任の生き物のように動く唇を見つめる。この学校はクラス替えがなく、四月のワクワク感もあまりない。だからこの結城桜子とも、話好きな浜田先生とも二年目の付き合いだ。ほんっとにおしゃべりな先生。そのうち顔全体が唇になりそう。
先生は一つ息をつくと、やっと言った。おまけ付きで。
「それでは、ホームルームを終わりにします。今日は朝礼があるから遅れずに行ってね。あ、吉村さんちょっと来てくれる?」
寝てたから怒られるんじゃない?と笑う桜子を尻目に教卓へ向かう。担任は教材の入ったバスケットを抱えると、美月に職員室へ来るように行った。
「何するんですか」
「ん、ちょっと用事を頼みたいのよ。来ればわかるわ」
美月はため息をついてわかりました、と言った。
「何だったの、先生の話。怒られた?」
「なんで怒られること期待してんの。職員室行けってさ、面倒だなぁ」
「ま、学級委員の運命ですね。ファイト美月」
桜子の応援を受けて、美月は職員室に向かった。
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