お局美智

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美智には事務所内の人が減った時にするべき仕事があった。役員室と会議室に仕掛けられた盗聴器で録音された音声ファイルを確認する作業だ。それは愛川が社長交代時に新任社長に命じられて始めたことだが、自分がやりたくないものだから美智に押し付けたのだ。 本来、事務職の美智がやるような仕事ではなかった。いや、盗聴行為そのものが、仕事として認められるようなことではなかった。 「社長ったら、どこまで社員を信用しないのかしら」 イヤフォンを耳に付け、ぼやきながら倍速で音声を聞き流す。盗聴器は音が発生した時だけ作動するから、録音時間が膨大になるものではない。とはいえ、音声のほとんどは仕事の話しか、つまらない世間話だ。おかげで『お局美智』という自分に付けられたあだ名を知ることになった。 稀に、不倫や仕事の失敗の話題があるが聞かなかったことにしている。それをネタに社長が経営の改革を始めたところで、首切りと社員間の相互不信が増し、組織がボロボロになるだけだと思うからだ。
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