小心者

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愛川の失踪に僅かばかりの心当たりがある美智は、領収書の発行履歴を調べた。入金予定の急な変更から推測できる不測の事態は代金の持ち逃げだからだ。 領収書はパソコンで発行し、印刷時にその履歴が残る仕組みになっている。もし、その領収書を使わない場合は穴をあけて使用できないようにしたうえでファイルに綴じ、パソコン上の書損処理を行う。 愛川が欠勤する前日、青田商店宛の5千万円の領収書が発行され、その日の内に書損として取り消し処理されていた。ところが、取り消されたはずの領収書はファイルに残っていない。誤って破棄された可能性は低い。ならば、誰かが悪用したということだ。 「やられた」美智がつぶやくと、「どういうことですか?」と麻里が聞いた。 「大人の事情というやつよ。課長を捜しに行ってきますね」 美智は時刻が17時を回っているのを確認し、麻里に後の仕事を託して会社を出た。
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