小心者

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「みっちゃんには敵わないな」 小心者の愛川は立ち上がり、奥の部屋から黒い鞄を持ってきて差し出す。 「今時、大金を現金で払うなんて、青田商店側はおかしいと思わなかったのでしょうか……」 美智は嫌みを言いながら5千万円の札束を数えた。全て帯封がついていたので数えるのは簡単だった。 「お金は入金処理しておきます。ですから、明日は出社してください。それが無理なら、依願退職してください。少ないですが退職金も出るし、失業保険ももらえます」 「優しいんだな」 愛川が苦笑する。 「優しくはありません。女は気持ちが変わったら夜叉になります」 美智は雛菊が化粧をしているはずの奥の部屋に視線を向けた。 「金の切れ目が、というやつか……」 愛川にも雛菊の愛情が本当の愛ではないということぐらい痛いほどよく分かっていた。 「会社がブラックだからといって、課長までが黒くなってはいけないのです」 美智が言うと、「みっちゃんには敵わないな」と愛川は顔を歪めた。 美智は雛菊の部屋を辞し、重い鞄をぶら下げて会社に戻った。金を経理の金庫に納めると、何かを思いついたようにパソコンにUSBメモリーを挿して、ハードディスクの中から音声ファイルのコピーを取った。
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