お局美智

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資料を抱えたまま監査役室のドアを開けることはできず、一旦、床に資料を置いてノックをする。 「どうぞ」 硬い返事は6月に就任したばかりの瑞穂のものだ。メインバンクの推薦で監査役になった女で、それまでは銀行で支店長をしていた。リストラの天下り先がここだったということだ。 瑞穂の席の隣にもう一つの机がある。別の監査役、野村晶乃の席だ。晶乃は社長の妻で、役員会と決算時期の監査以外には顔を出さない。それでも年間1千万円の役員報酬をもらっているのだから羨ましい限りだ。そんなことを知っているのは総務と経理課の社員ぐらいだが。 「資料をお持ちしました」 資料を運び込む美智に向かって、「愛川課長に持ってきてほしかったのだけれど。資料を見れば質問したいこともあるだろうし……。それとも、あなたの方が何でも知っているかしら」と瑞穂が瞳を光らせた。 あらら、課長ったら顔を合わせたくないものだから私に運ばせたのね。それに、会社のことなら私が何でも知っていると監査役が捉えている節がある。課長が吹き込んだようだが迷惑な話だ、と心の内で舌打ちをした。
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